北澤豪さん(左)と社長の佐野裕己(右)

一本道

佐野
海外出張の際、現地の商談相手から「日本人としてのアイデンティティ」を問われることがありました。 しかし答えられない日本人が多くて。

北澤
何も言えないと「おまえ、日本人か?」って言われますよね。

佐野
ですよね。 そんな時にもアイデンティティを語れるようになりたく、居合道を嗜んでいます。 剣道の竹刀とは違って、居合道は真剣で型の練習をするんですよ。 人に当たれば切創を負います。
他には茶道や、高校時代は柔道の経験もあります。

北澤
道、道で、徹底していますね(笑)。

佐野
よく「武道とスポーツの違いは何?」と聞かれるのですが。

北澤
スポーツは遊びの延長ですね。 国同士の戦いにもなりますが、レクリエーションとして楽しむものです。

佐野
武道のもとは「武士の生業(なりわい)」で、命のヤリトリをするところが発祥かと思います。 だからこそ「礼に始まり、礼に終わる」とし、「納得した」ことにしているのだと思います。 私なりの解釈ですが(笑)。

当社の生業についても説明させてください。
われわれは、株式会社オープンアップグループの特例子会社(※3)です。 知的障がい、精神障がい、身体障がいなどの約170名の障がい者スタッフが、神奈川県の相模原市・横浜市、東京都千代田区・町田市など、計5カ所で活躍しています。

※3 特例子会社: 障がい者の雇用促進などを図るため、事業主が障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立。 その子会社に雇用されている労働者を"親会社とグループ各社"に雇用されているものとみなして、法定雇用率を算定できる。
ここで紹介する株式会社ビーネックスウィズは、株式会社オープンアップグループが設立した特例子会社。

主として3つの事業を手掛けています。

  1. フラワーアレンジメント事業
    アーティフィシャルフラワー(造花)を使ったアレンジメント制作。 グループ各社への販売にとどまらず、OEM製品として一般市場にも供給。
  2. ステーショナリー事業
    グループ各社から回収した紙資料などを再生紙化。 カレンダーや名刺としてグループ内外に販売。
  3. アウトソーシング事業
    グループ各社の事務処理代行。 紙資料の電子データ化や契約書の発送業務などに対応。

事業を進める上で大切にしているのがWithWayで、当社のミッション・ビジョン・バリュー・行動指針が包括されています。 このWithWayを実現していくことで、当社グループのパーパスも実現できると考えています。

株式会社ビーネックスウィズのWithWay

ミッション
会社の存在意義、
社会での役割
従業員が日本で一番働きやすい会社になる
ビジョン
会社の将来像
STEP 1: 従業員の幸せ向上
STEP 2: 活動領域の拡大とクオリティの向上
STEP 3: 顧客満足度の向上
バリュー
従業員と会社が
大切にすること
行動指針
Valueを日々の行動に
落し込んだもの
W Warmly
(あたたかい心)
お互い気持ちよく笑顔で挨拶しましょう ほか
I Identity
(個性の尊重)
自分ができていることに自信を持ちましょう ほか
T Try
(やってみようの精神)
楽しみながら仕事をする工夫をしましょう ほか
H Honest
(正直に真っ直ぐに)
自分ごととして仕事に取り組みましょう ほか

WithWayを一部簡略化して表示しています

ビーネックスウィズ社内報
「WithFamily」を読む北澤さん

ミッション]や、[ビジョンのSTEP 1]にも掲げている通り、障がい者スタッフら従業員の「働きやすさや幸せ」を第一に追求していきたいと考えています。 結果として、顧客企業からも評価されるようになる流れです。

もともと私は、当社の親会社で総務部長職にありました。 一人前のビジネスマンとしてその道を極めていくつもりだったのですが「自分のやってきたことが、社会で何か役立てないだろうか」と思うようにもなり、ちょうどその頃に、障がい者雇用を進める当社社長を拝命しました。

北澤さんも、お若いころからサッカーを続けられ、読売ジュニアユース、実業団の本田技研工業サッカー部、読売サッカークラブ、ヴェルディ川崎と、トッププレーヤーとして一本道を走って来られたとお見受けしています。 ですが現在は、障がい者や途上国の「サッカーを楽しめる環境整備」に注力されていらっしゃいます。 そのアプローチの源泉について、ぜひお聞かせください。

強みを活かせる

フラワーアレンジメント担当の
障がい者スタッフ(右)と北澤さん

北澤
読売ジュニアユース時代、練習場に目や耳の不自由な子どもたちが遊びに来て、一緒にサッカーを楽しむ機会がありました。 また本田技研工業に在籍時、グラウンドの近くに障がい者労働の支援施設があり、障がい者らと触れ合う機会もあったりと。 サッカーを楽しむ場で障がい者と交流するのが、普通というか当たり前でしたね。

プロとして現役の頃は、国民の皆さんにサッカーに目を向けていただくため、チームや選手としての強化や、Jリーグや代表戦への注目を集めるため、実績を積み重ねることに突っ走っていました。

一方で、違う視点でサッカーについて考えるようにもなりました。
サッカーに対する注目度を上げることで、多くの人がプレーも楽しんでもらいたい。 しかし、障がいがある人をはじめとして、誰もが日常的にサッカーを楽しめる環境なのか。 スポーツは「誰もが楽しめる」というのが大前提なはずですが、実態は違います。 そして、サッカーをプレーできたとしても、日々の生活が成り立っていなければ意味が無いじゃないですか。

自分は「サッカーを楽しめる環境創り」というアプローチをしていますが、サッカーがゴールではありません。 誰もが仕事などを通じて日々の生活を成り立たせた上で、サッカーなどのスポーツを楽しめる環境を創りたいんです。

佐野
おっしゃること、良く分かります。
当社では、障がい者スタッフに「しっかり働いたお給料で、映画を見るとか、おいしいものを食べるとか、自分のやりたいことを、自分で見つけてやってみよう」と言っています。

障がい者スタッフ(右)から指導を受け、
紙漉き(再生紙制作)を体験する北澤さん

北澤
今日は、こちらのフラワーアレンジメントの制作現場や、再生紙や紙製品の制作現場を見させていただきました。 作業工程を細かく整備していますよね。 こういう場があると、自分の強みが分かって、自信をもっていろいろなものに向き合えます。 ミシン担当のスタッフが誇らしげに「これ(ミシン)が得意です」と言ってくれたのが、とても印象的でした。

サッカーも「自分発見の場」であることが多いです。 自分ではセンターフォワードが得意と思っていたのに、実はゴールキーパーのほうが適していたなど、よくあります。 その気づきで、自分の強みを活かせる場所に行ってほしいなと思います。

ここで働いている障がい者スタッフの皆さんは、明るく礼儀正しく、"いきいきと働いている感"が溢れていますよね。 共生社会を実現していくことが時代の流れですが、ビーネックウィズのような企業はロールモデルになります。

佐野
強みを活かせる場、そして誇らしげにいきいき働ける場にしていきたいですね。
われわれは冒頭で紹介した通り、ミッション・ビジョン・バリュー・行動指針が包括されたWithWayを掲げています。 その中の行動指針では一番に「挨拶をしよう」「感謝の気持ちを伝えよう」としています。 当たり前のことですが、こんな指針をみんなで共有しています。

障がい者スタッフの再生紙カット作業を
見守る北澤さん

北澤
挨拶や感謝は、組織づくりの一番重要で大事なところです。 結果だけ言うと、全てそこに立ち戻ります。 コミュニケーションのきっかけにもなりますし"言葉で表す力"が必要です。
ブラインドサッカー(※4)のプレーヤーたちは、"言葉で表す力"に関し明確性とスピード感があります。 彼らと一緒にいると、言葉の使い方のいい刺激を受けますよ。 自分が留学していたブラジルは、ブラインドサッカーでも強豪国です。

※4 ブラインドサッカー: いわゆる「見えないサッカー」。 ゴールキーパー以外が全盲の選手で、音の出るボールを用いてプレーする。

佐野
私も日々、社内でどういう言葉を使うかずっと考えています。 社長拝命前とは日本語の使い方が変わったと思います(笑)。

北澤
お話の仕方も含めて、もう本当に雰囲気は、大学教授ですよ(笑)。

人生を楽しむ

佐野
強豪国ブラジルと言えば、われわれが想像できないような神秘(創造)的なテクニックがありますよね。

北澤
あの人たちは、追及するレベルが高いんで。 しかも"つまらなく"結果を勝ち取ってもダメ。 楽しく勝ち取ることに意味があると言うんです。

佐野
仕事は楽しくやろうぜ、ということですね。

北澤
そう。 苦しんで、何かを我慢して結果をとっても嬉しくないと言いますから。 人生を楽しもうという発想の中にサッカーがあるんですよ。 その発想の広さで、あのテクニックが発揮されているんでしょうね。

以前の日本には「全部犠牲にしてでも頑張ろう」というような雰囲気がありましたが、ブラジルには「楽しもう」という豊かさがある。 「幸せにならなきゃ意味がない」「楽しくなければ意味がない」って言っていますし、海外でプレーする選手も、リオのカーニバル期間中はブラジルに帰国します。

佐野
われわれも行動指針に「楽しみながら仕事をする」と掲げていますので、ブラジルと考え方が似ているようですね(笑)。

従業員が日本で
一番働きやすい会社になる

佐野
今回お会いするにあたり、「北澤豪のサッカーボールがつなぐ世界の旅(報知新聞社)」を拝読しましたが、北澤さんの人への「向き合い方」に共感を覚えていました。
実際にお話しさせていただいて、感じたのは「アミーゴ」です(笑)。

北澤
ブラジル系ですね(笑)。
フラワーアレンジメントやステーショナリーの制作現場を訪問し、感じたのは、ビーネックスウィズの空気感が良いってことです。 居心地が「良い・悪い」ってすぐに分かりますよね。 自分はまだ数時間しかいませんが、居心地がとても良いです。 照明にしても、壁紙にしても、皆さんの雰囲気も、ミッションに掲げる「従業員が日本で一番働きやすい会社になる」を実現していくからなんですよね。 そういった意図が感じられます。
WithWayがあるからこそなんでしょうね。

佐野
この限られた短い時間の中で、そこまで読み取っていただき、本当にありがとうございます。
今日は北澤さんとの「最初の一歩」にすぎませんので、引き続き様々な機会でアドバイス願います。